「いろは短歌」というものをご存知でしょうか。いろは歌を頭字にして詠み込んだ歌のことです。
い 犬も歩けば棒に当たる
で知られる「いろはがるた」も、この仲間と考えてよいでしょう。
江戸時代に書かれた「いろは短歌」を1つご紹介します(長いので途中まで)。ちなみに、いろは短歌には様々な種類があり、主に子ども向けの道徳や教訓の意味合いを持つものでした。しかし、中には道徳ではなく、諧謔(かいぎゃく•ユーモア)や風刺に近い内容も多く出てきて、なんでもありの状態になっています(笑)。
※現代仮名遣いに変えています。
い いかな日も 人にすぐれて朝寝して
ろ ろくな心は 持ちもせで
は 腹立ちそうな 顔をして
に にっこと笑いし こともなく
ほ 頬は高くて 鼻低く
へ へらりへらりと 口をきき
と 途方はなくて 物忘れ
ち 知恵は浅くて
り 利口ぶり
ぬ 縫い針わざは 知りもせで
る 留守にもなれば 昼寝して
を 男若い衆を 相手とし
わ 笑い騒ぐが 得手ものよ
か 髪頭をば 結いもせで
よ よそ歩きをして 口をきき
た 高声にての 物語り
れ 歴々衆の 前にても
そ 粗相なことを 言い散らし
つ 面の皮の 厚ければ
ね 懇ろぶりして 人々に
な 馴れ馴れしげな ことを言い
ら 楽することが 好きなれば
む 無性に銭を 使い捨て
う 嘘つくことが 名人で ……
五七五七…と繰り返しているところは、短歌というより長歌ですね。
この作品は、「人間、こうなってはいけないよ」と反面教師的な教訓を述べているのだという説もありますが、私は少し違う解釈です。身近な人(旦那や奥さん、近所の人など)の姿を観察し、少々大袈裟に面白おかしく、江戸流のユーモアとぴりっとした批判精神を込めて書いたものだと思っています。
令和のいろは歌を作ってみるのも表現力が磨かれて良いなあ、と思いつき、今回取り上げてみた次第です。来年度には教材化しようと考えていますよ。