失恋や親しい人との別離…。
心に受けた悲しみを吹っ切ろうとする時、皆さんはどうしていますか?
カラオケに行く、友だちとおしゃべりをする、飲みに行く…。
癒す方法は人それぞれだと思います。
悲しみや辛さを何とかして忘れたい…。
そう考えたのは、古代の人も同じ。
当時、和歌や文献でよく登場していた言葉に「忘れ草」「忘れ貝」というものがあります。
「忘れ草」は、その草を身に付けると悲しみを忘れられるという伝説を持つ草のこと。ヤブカンゾウの古称です。
忘れ草 我が紐に付く 香具山の 古りにし里を 忘れむがため(大伴旅人・万葉集)
訳:忘れ草を摘んで腰ひもに付けよう。香具山のあのなつかしい里を忘れるために…。
一方「忘れ貝」は、拾うと悲しみが薄らぐと語り継がれていた貝です。学名はワスレガイ。
特に、「失恋した時にその苦しみ・つらさに耐えかねて、忘れ貝を拾いに行ったよ」…という内容の歌が多い傾向にあります。なので、別名「恋忘れ貝」と言われていました。
我が背子に 恋ふれば苦し 暇あらば 拾ひて行かむ 恋忘れ貝 (大伴坂上郎女・万葉集)
訳:あの人を愛しているので苦しい…。旅の途中で暇な時間があれば拾いに行こう。辛い恋を忘れられるという恋忘れ貝を…。
これら2つの和歌は今から1300年以上前に詠まれた和歌です。
どんなに時が経ても、人間の感情って大きく変わらないんですよね。
…別れは苦しくて辛い。
でも、それをいつまでも引きずってはいられない。
なんとか前向きに生きていこう。
喪失感や孤独感や胸の痛みと同時に、そんな強さも感じられる歌です。
私が20代の頃。
大きな失恋をした私は、同じく昔の彼との思い出を引きずったままの友達を連れて、海に「ワスレガイ」を拾いに行きました(笑)。
2人で夢中で探しましたが、そう簡単に見つかるわけがありません。
半ば諦めかけたその時、宝石の1つである「メノウ」の原石を発見したのです!
そのあと私たちは、ワスレガイそっちのけで、日がとっぷり暮れるまでメノウを探し続けました(笑)。
結局、ワスレガイは見つからなかったものの、何だか少し元気になって帰宅したのを覚えています。
探すと見つからない。
無理に探そうとしなければ、いつの日か見つかる。
それが忘れ貝なんです、きっと。