これまで沢山の子供たちに出会ってきました。
全ての子がそれぞれ個性的で輝ける存在でした。
その中でも特に印象に残っている生徒をご紹介していきたいと思います。
「野人・じゅん君の巻」
じゅん君と出会ったのは7年前。
じゅん君が小学1年生の時でした。
髪は鳥の巣のようにボサボサ。
服も顔も泥で真っ黒。
いつも裸足。
「さしすせそ」を「しゃ・し・しゅ・しぇ・しょ」と発音。
いつも口をぽか~んと開けている。
それがじゅん君です。
じゅん君は落ち着きが無く、5分と椅子に座っていられません。
言葉も乱暴で、優しく学習することを促す先生に対して、
「うるしゃい!ころしゅぞ(ころすぞ)!!」と怒鳴り、鉛筆を投げつけることも。
周りの生徒からは、「殺し屋」「野人(やじん)」というあだ名をつけられていました。
小1なのに…(笑)。
私に対しても、それはそれは粗暴な態度で…。
「アンパンマン先生!」とか「おっぱいマン先生」とか…イラっとくるあだ名をたくさん付けられました。
他の先生は「ブスブタ」や「死体」など、ひどい言葉の上に敬称(先生)が付いていなかったので、私のあだ名はまだマシなほうです(笑)。
「男じゃないのに『マン』は無いでしょ~!」と注意をすると、「女のふりをした男のくせに」とじゅん君。
…誰が男だ!!どっからどう見ても女だろうが!
とにかくじゅん君は、人をカチンとさせる天才でしたね(笑)。
私が勤めていたこの塾。
「生徒を叱らない」という方針がありました。
良いところを伸ばすだけで、叱る必要はない。だから、先生方も叱ってはいけません。
…と塾長はいつも言っていました。
なので、じゅん君がどんなにヒドい振る舞いをしても誰も叱れないのです。
ある日、じゅん君は教室内で「おしっこ」をもらしてしまいました。
じゅん君の異変と臭いに気づいた他の生徒が、じゅん君をひやかし始めます。
騒ぎを聞いた先生方も雑巾を持って駆け寄り、じゅん君を一旦トイレに連れて行こうとしました。
でもじゅん君は席を立とうとしません。
そのまま問題を解き続けます。
「じゅん君、行こう。おしっこで汚れたから着替えないと!」と促す先生の手を振りほどき、じゅん君はこう言いました。
「おれは、じぇんじぇん汚れてない。…(おしっこではなく)あしぇ(汗)をかいたんだ!」
悔しさと恥ずかしさからか、じゅん君の目から涙が流れます。
…この子、何だかかっこいいぞ。
まだ7歳だけど、しっかりとプライドを持っている。
最後まで「オレ流」を貫こうとするなんて。
常識的では全くないけど、かっこいいよ、じゅん君!!
私は、涙を拭いてあげようとじゅん君に近づきました。
そして、
「…じゃあ、この涙も汗なのかな?」と、我ながら上手いこと引っ掛けたと思いながら、じゅん君の顔にハンカチを近づけたところ……。
「これは涙に決まっているだろう。バカおっぱいあんぱんマン!」
…じゅん君は今、どんな人間に育っているんだろう?