なづむ(泥む)
高校生に古文を教えていて出てきた言葉です。
これは上代から使われている言葉で、元々は草や雪、土などの障害物のために行く手を阻まれる=「停滞する・滞る」という意味を表しました。そこから、物事が進まない様子や、スムーズにいかなくて思い悩む心情を指す意味でも使われるようになったようです。
この「なづむ」→「なずむ」という言葉は現代でも残っています。
武田鉄矢さんの名曲「贈る言葉」の歌い出しにも、こんな一節がありますよね。
暮れなずむ町の光と影の中
去り行くあなたに贈る言葉
「暮れなずむ」とは、日が暮れるのが進まない。つまり、暮れそうでなかなか暮れない、日が完全に沈みそうで沈まない状態を言い表した言葉です。
補助動詞としては、「暮れなずむ」という以外には見たことがありません。しかし、
暮れる+なずむ
だけしか使わないとは辞書に書いていないので、敢えて他の使い方を考えてみました。
・雪が溶けなずむ
(雪が溶けそうで溶けない)
・桜が咲きなずむ
(桜の花が咲きそうで咲かない)
…どうかな(笑)。
私は子どもの頃から、夕暮れの空が好きでした。夕刻の空ってどんどん色を変えていきますよね。私は薄明の空、マジックアワーと言われる日の入り直後の紫に染まった空が一番好きです。見ていると、何故だか切ないような、懐かしいような不思議な気持ちになります。
高校生の時、帰り道でこの空と出会うと、少々オーバーなのですが、
「この空を見るために私は生まれてきたのかもしれない」なんて思ったものでした(笑)。文字通り、魔法にでもかけられたような心持ちになります。二度と同じ空には出会えないという、刹那の美に対する畏敬の念なのかもしれません。マジックアワー(薄明)の空。
私が好きなのは上の青紫色の空です。
暮れ初む(くれそむ)…暮れ始める
↓
暮れ行く…どんどん暮れていく
↓
暮れなづむ→暮れそうでなかなか暮れない
↓
暮れ果つ(くれはつ)→完全に暮れた
これらは、日が落ちていくまでを表す言葉です。日本人は古来より自然に対する感性が豊かだったのでしょうね。