私は佐藤さまについて書かれた情報シートを読んで、すぐにラムネや駄菓子を購入しました。
そしてそれらに付箋を付け、いつものストック棚へ。
以前、近所のスーパーで行なわれた夏祭りのくじで当たって放置していた「型抜きセット」も念のため用意しておきました。
数週間後、再び佐藤さまからのご予約が入ったとき、接客担当のゆかちゃんともえちゃん(いずれも仮名)は、ある作戦を立てました。
「いらっしゃいませ!」
そう佐藤様を出迎えた2人は浴衣姿。
テーブルは型抜きセットやラムネ、駄菓子でいっぱい!
「3人でミニ縁日しましょう♪」
呆然としている佐藤様の背中を押して、席に座らせます。
「あたし、型抜きってしたことないんですよ~。どうやるんですか?教えて下さい」
彼女たち2人に促されるように、佐藤さまは型抜きを始めました。
「これをこうやってね…」
「何これ~!?難しすぎる…」
「そんなんじゃダメダメ。すぐ割れちゃうよ」
「きゃ~っ!せっかくもう少しだったのに~」
大盛り上がりで熱中する3人に、周りのお客様も何事かと興味深々(笑)だったそうです。
そのあとも、くじ付きのお菓子でゲームをしたり、
「この梅ジャムはね…」佐藤さまの「駄菓子談義」に耳を傾けたり。
終始、佐藤さまは笑顔でした。
「ガキの頃、旭川のおふくろの実家によく行っていたんだ。バスでいつも札幌に帰ってきてたんだけど、バス停近くに小川商店っていう駄菓子屋があってさ。毎回そこでお菓子を買って、2人でバスを待ちながら食べるのが日課だったんだ。おふくろ、いつもこの「棒きなこ」を食べてたんだよなぁ。あの時は俺、マズくて大嫌いだったんだけど…うん、今食べると美味しいなぁ…」
そう話す佐藤さまの目から大粒の涙がポロポロと落ちました。
少し茶色がかった瞳をうるませながら、涙があとからあとから出てきます。
その時点ではまだわかりませんでしたが、情報シートによると、佐藤様のお母さまは彼がまだ中学生の時に亡くなったそうです。
佐藤さまにとって、お祭りや駄菓子はきっと「懐かしく楽しかった子供時代の象徴」であるとともに、「優しい母との思い出そのもの」だったのでしょうね。
「またミニお祭り開きましょ」
「ほらっ、佐藤さんの好きな『くろぼう』、もっと食べてくださいよ~」
そう声を掛けるゆかちゃんともえちゃんももらい泣きをしています。
2人とも涙でマスカラが取れちゃっています(笑)。
お店を出るとき、佐藤さまはママにこう言ったそうです。
「あ~、こんなに楽しかったのはいつぶりだろ?前に来た時に何気なく言ったことを覚えていてくれたんだな。
今日もさ、「ヨーグル」がどうとか「ねりあめ」がどうとか(笑)…たいした面白くもねーオレの話、ゆかももえも真剣に聴いてくれてたよ。…ママ、ありがとな。」
・お客様が前回いらした時に言ったことを聞きとめてメモをする。
・そして、次回のご来店に備えて準備をする。
・それらを十二分に活用し、再び来店された時におもてなしをする。
言葉で書くと3行で足りるくらい、とっても単純なことです。
私たちはそれを徹底して実践しただけのことです。
だけど、佐藤様はその後…閉店するその日まで、多くのお客様をご紹介下さいました。
売り上げ的にも一体どれだけお世話になったことか。
感謝で胸がいっぱいになります。
このミニ縁日を用意するために費用は300円程度でした。
だって、駄菓子だもの(笑)。
なにも高価な物を用意しなくてもいいんだと思います。
「お客様に喜んでもらいたい。」
「じゃあ、何をしたら喜んでもらえるかな?」
そのための材料を集めるのが「お客様情報シート」です。
「耳と心を傾けて、相手の話をしっかり聴く」という行為そのものが「ホスピタリティ」であり、
1円もかからない、でも最高に価値のある贈り物なんだと思います。
「お客様情報シート」を導入してから、お客様満足度が目
に見えて高くなってきたようです。
では、これを書くスタッフにはどんな変化があったのでしょうか?
次回はそれについて書きますね!(続く)