子供たちが広場で虫取りをしている。
ある男の子が虫を見つけたらしく、周りの子達に大きな声でこう呼び掛けた。
「誰か、バッタいらないか?」
声を聞き、数人が彼のもとに駆け寄った。
「おくれ、おくれ!」
でも、彼は誰にもそれを渡さず、再度呼び掛けた。
「バッタ、いらないか?」
すると、1人の女の子が近寄ってきた。
「バッタ、ちょうだい」
男の子は、今度は素直に彼女に手のひらの虫を差し出した。
その虫を見た彼女は驚く。
「あら?これ、鈴虫よ!」
女の子「バッタじゃないわ。鈴虫よ」
男の子「…ああ。鈴虫だ」
その時の女の子の嬉しそうな顔ったら!!
これは、川端康成の作品、「バッタと鈴虫」の一節です。
男の子は最初から、この女の子に虫をあげようとしていました。
もちろん、それがバッタではなくて「鈴虫」であることを知っています。
知った上で、あえて「バッタだよ」と言って渡すのです。
う~ん、やるなぁ!
人間心理をよくご存じで(笑)
日常生活でも大いに活用できそうです。
程度の軽いものを示しておいてから、それを裏切る。
相手は期待していない分、驚きと嬉しさが倍増するという算段でしょう。
でも、これが逆だと腹立たしいな。
「はい、プラチナのペンダント!」
喜んで開けてみると、「低燃費ハイジのストラップ」だったら…。
笑いを通り越して、軽く殺意さえ覚えます(笑)
この作品は高校生の時、国語の教科書に載っていたものです。
私はそこから川端作品にはまり、たくさんの本を読みました。
この作品の収録されている「掌の小説」は短編小説なので、川端作品の初心者には特にお勧めです。
みがくにもあるので、お貸ししますよ♪