私が今よりずっとずっと尖っていた時代の話。
とある塾で、「文章を読むときには、線を引いたり、キーワードを囲んだりして能動的に読もう」と指導していました。これは今でも生徒に徹底して教えていることです。
ある日のこと。1人の男子生徒(当時中1)が線を引かずに問題を解いていたので、引くようにと声をかけました。すると生徒はこう言うのです。
「問題用紙が汚くなるから線は引くな、ってお母さんが…。」
その男子生徒は特にケアレスミスが多くて、読み飛ばしたり読み違えたりする癖がある子でした。加えて、話題となっている事がらを掴むことが苦手なのもあり、文章に線を引いたり、話題の中心になっている言葉に丸を付けたりしながら丁寧に読む練習をしている最中だったのです。もう一度、その子に線引きの意義と必要性を説いても、困ったような顔をするだけ…。埒が開かないのでお母さんに直接話すことにしたのです。
お母さんの言い分としては、
★線を引くともともとの文字が潰れてしまって読めなくなる。
★いつかもう一度解く時にチェックが邪魔。
…ということでした。それだけでも充分に呆れるのですが、これ以上話しても無駄だなと匙を投げてしまったのは、
「線を引きながら読むと、シャープの芯の減りが酷いじゃないですか。」
という一言。最初は冗談を言っているのかと思いましたが、どうやら本気のようでした。
シャープペンシルの芯が買えないほどに、家計が逼迫している訳では決して無いと思うのです。ディズニーランドに行った、とか、プレステ2(当時は入手困難だった)を発売初日に買ってもらったとか、その生徒がよく話していましたしね。そもそも線を引くぐらいで芯なんて減らないでしょうよ。
「塾内で指導することに関しては、信頼して実践してもらわないと結果が出せませんよ。」私の静かな怒りが伝わったのか、その場では(渋々)了承してくれたものの、その子はその後も線を引かず、ミスも減らず、すぐに退塾してしまいました。
指導者は、生徒だけではなくて保護者とも対峙しなくてならない。それを思い知った一件でした。