塾長ブログ

悪かったのは誰?

※以前書いた記事を修正•加筆したものです。
きっと、ぼくも悪かったんだと思う。
泣き腫らした目で、彼はそう呟きました。
タツキ君(仮名)、当時小学3年生。
どの教科も学習進度が速いだけではなく、周囲にしっかりと気配りができる生徒でした。
大人びた態度からか、友だちからは「じい」と呼ばれています。
私が2週間ほど臨時講師をしていたその塾では個別指導を行なっていました。
時間帯によっては生徒への質問対応や採点業務に追われ、2~3分程度ではありますが、
「ちょっと待っていてね!」と生徒を待たせてしまうこともありました。
自分の番が回ってくるのを待つ生徒たちのスタイルは千差万別。絵を描いている子。おしゃべりをしている子。机にうつ伏して寝ている子。ぼーっと頬杖をついている子…。
「先生、まだぁ~??」「早くしてよ、先生!」そう訴えてくる子たちもいます。
汗をかきかき必死に採点している私に、タツキ君はいつもこう言ってくれたのです。
「先生、ぼくのは後回しでいいよ。」
自分は後回しでいい。だって、待っている間に本がたくさん読めて嬉しいから。
そう話す小3の彼に幾度となく救われた思いがしました。
臨時講師としての役割が終わりを迎える数日前のこと。タツキ君が顔と手足に擦り傷を作って、塾にやって来たのです。
ひどく泣いたのか、目が赤く腫れています。自分の席にカバンを置くと、彼はそそくさとトイレに向かいました。
気になった私は、トイレを出たところで彼を引き留めて、「その傷、どうしたの?」と聞いてみました。すると、タツキ君は呟くように、
「けんかをしたの。」
…えっ、タツキ君がケンカ??
さらに聞けば、学校帰りに同じクラスの男子と喧嘩をしたと言うのです。
教室内の備品にいたずらをしていたクラスメイトのリョウ君(仮名)を注意したら、思い切り押されて転んでしまった。かっとなって押し返したら喧嘩になってしまったのだ、と。
私に打ち明けたことで張り詰めた糸が切れたのか、タツキ君はシクシクと泣き始めました。
その間3分くらいでしょうか。
頬を涙で濡らしながら、タツキ君は顔を上げて呟きました。
「きっと、ぼくも悪かったんだと思う」
彼は続けます。
「『おまえが悪い』 って、人を指さすのはダメなんだって。残りの3本の指は自分のほうを向いているからって、お母さんが…。」
擦り切れた、小さな手の指を曲げながら、タツキ君はそう言いました。
タツキ君の言わんとすることはわかります。私も中学時代の恩師から同じ話を聴いたことがありましたから。
「あなたが悪い」と相手に指をさす時、あなたのその人差し指は相手に向かっています。
しかし同時に、折り曲げた中指や薬指や小指は、指したあなた自身に向かっている。
「あなたが悪い」と、相手を非難・批判する前に、自分自身をまず振り返ってみてください。果たして自分には非が無かったのだろうか。回避する術は無かったのだろうか。そう振り返ることは、相手をただ非難することよりも三倍難しく、三倍価値があることなのですよ。
私の人生においてこの言葉は今でも大切な「道標」の1つです。
小学3年生のタツキ君は彼なりにこの言葉の意味を理解していたのでしょう。
「いたずらをしたことは絶対にりょう君が悪い。でも、ぼくも先生に相談しておけばよかったんだ。ずっと前から、リョウ君たちのやっていたことを知っていたんだから…。それに、押されたときにやり返さないでダッシュして逃げればよかったよね。そしたら、ぼくもリョウくんも怪我しなくて済んだんだ。」
雨上がりの空に虹が架かるような、そんなすっきりとした表情でタツキ君は言いました。
…タツキ君の言っていることは正しい。そしてとても立派な心掛けだと思います。小学三年生でそんな考え方のできる子はなかなかいません。だけど何だろう、釈然としないこの気持ちは。
もっと泣いてもいいんじゃないかな。我が儘を言ってもいいんじゃないかな。
だって、君はまだ子どもなのだから。
泣くことも、迷うことも、間違えることも、それは子どもの特権であり、全てが成長の糧なのだから。
どう言葉を掛けるべきか逡巡している私を見て、どうしたの?と心配そうにのぞき込むタツキ君。大きな瞳の中に、困り顔の私が映っていました。
講師を始めて3年目。
矛盾と不条理が溢れたこの世界で、指導者としてのあるべき姿を模索していた日々。
そんなときに出会った、「じい」と呼ばれる少年のエピソードでした。
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