平安時代後期に成立した、日本最古の短編物語集「堤中納言物語」。短編なので読みやすい上、ストーリーが一風変わったものが多くて面白いので、古典初学者にはお勧めの古典作品です。
その中に「虫めづる姫君」という有名な作品があるのですが、作中にこんな歌が。
うらやまし 花や蝶やと いふめれど
皮虫くさき 世をもみるかな
🐛現代語訳:
うらやましいこと!世間では『花よ、蝶よ』な~んて言っているのに、私たちは(毛虫好きな姫君に仕えてしまったために、こんな)毛虫にまみれた日々を送っているなんて…。
歌中の「花や蝶や」という言葉。花も蝶も美しく、慈しむべきものだということから、親が子ども(特に女の子)を「大切にする」「甘やかす」などという意味で使われていました。堤中納言物語より早い時期に成立した「枕草子」にも既に登場しています。
江戸時代あたりから「蝶や花や」と、語順が変わり、現代でも「蝶よ花よ」という慣用句の1つとして残っています。
「ちやほや」という言葉がありますよね。それはこの慣用句が語源になっているのです。通説では、江戸時代頃、「蝶や花や」が縮まって「ちやほや」という言葉が生まれたとされています。「ちやほや」は可愛がるという意味だけではなく、「相手を甘やかしたり、機嫌をとったりする」というニュアンスが強く含まれている言葉です。また、対象も女児だけではなく大人の女性や息子、上司など、年代や性別を超えて使われるようになりました。
普段何気なく使っている言葉。その語源を調べてみるのも面白いですよ。…私が数十年前、とある学習塾で個別指導をしていた時のことです。ある小学生4年生の男の子に授業の中で様々な語源を教えました。その子は見事に語源にはまり、小学6年生にして古典作品を原本で読めるぐらいにまで古文好きになったのです。
興味や関心こそが学びの原動力なのですね。