塾長ブログ

女の戦い!~「2人妻説話」とは?

平安時代の日本は、「一夫多妻制(正妻は1人)」で、「通い婚」が普通でした。

通い婚とは、夫婦が同居するのではなく、夫が妻の家に通うというものです。


また、当時は夫の金銭的な世話をするのは、妻の父親でした。

父が身分が高く経済的にも豊かな家柄の女性は夫の面倒を見られるのですが、父が早逝したり身分が低かったりすると、それも難しい状態になります。

そうなると、夫(特に年齢が若い夫)の生活も苦しくなって、父親の庇護がなくなった妻から離れていくことが多かったと言います。


…そんな当時の背景を頭に入れた上で、今日は「大和物語」の149段をご紹介しますねニコニコ


ある夫婦がいました。

妻はとても気立てがよく、美しい顔立ちの人でした。

夫婦仲も良かったのですが、ある時、妻の父が亡くなったためか2人の生活が苦しくなってしまいます。


妻のことを愛しいとは思いながらも、生計を立てるのが厳しくなったので、男はもう1人の女性とも夫婦関係になります。

男は新しい妻の家に行くことが多くなり、そのことに元の妻もとっくに気付いています。

気付いていながらいつも、嫌な顔ひとつせずに夫を女のもとに送り出しているのです。


ある時、男は疑念を抱きます。

「どうして、ほかの女のところに行くオレをあんなに快く送り出してくれるんだろう?…もしかして、妻は浮気をしているのではないか?そうに違いない。よし、確かめてみよう。」

男は出掛けたふりをして庭に隠れ、妻の様子をうかがっていました。

浮気相手の男が妻のもとを訪れるはずだと鼻息を荒くしながら。


一方、男に見られているとも知らない妻は、念入りに化粧を始めました。

髪もキレイにとかして頬づえをつき、切なそうにため息なんかついています。


やっぱり誰かを待っているな。

男が来るに違いないむかっ!!

いよいよ、そう確信した夫…。


そんな時、妻がぼそっと歌を詠みます。

万葉集にも詠まれている名歌でした。


風吹けば 沖つ白波 たつた山 夜半にや君が ひとり越ゆらむ


意訳:あの龍田山を、こんな夜中にあの人はたった1人で越えているのだろうか。盗賊に遭わないだろうか、怪我をしたり、急病になったりしていないだろうか…。心配だなぁ。


夫は感動しました!!

浮気どころか、別の女のところへ向かう自分のことをこんなにも心配してくれている…。

自分がいないのにも関わらず、キレイに身なりを整えて自分の帰りを待っていてくれる…。

彼女を疑った自分がとても恥ずかしくなった男は、その後、この元の妻とよりを戻します。


後日談として、新しい妻のもとに久しぶりに訪ねていったときのエピソードが書かれているのですが、それは元の妻とは対照的なものでした。


男は新しい妻の家に行き、同じく外から中を覗き見します。

そこには新しい妻の姿が見えたのですが、男が来ないからと油断していたせいか、服も髪もだらしない感じです。また、食事をしている様子もとても下品だったので、男は幻滅して会わずに帰って行った…というものです。


以上が「大和物語」の一節です。

似たようなストーリーが「伊勢物語」(こちらのほうが成立は先)にもあります。

大和も伊勢も、どちらも作者がわかっていませんが、私は書いたのは男性だと思っています。


…だって、男目線でしょ、明らかに!

私が作者なら、最後にこの一文を加えますね。


かのもとの女、男のかいまみるを知りて、ことさら化粧じ、歌を詠みたるなり。

訳:あの元の妻は、男がのぞいているのを知ってわざと化粧をし、歌を詠んだのである。


私はこの作中の元妻に、「したたかさ」を感じます。

男を決して責めず、母のような大きな愛情で包んであげる。

そして、いつも身ぎれいにして男の帰りを待つ。

直接男に歌を詠みかけるのではなく、「健気な独り言」として聞かせる。


…すごいと思いません~?

元妻の計算上の策略じゃなかったら、男が作り出した非現実的な妄想(ロマン?)だと思ってしまうのは私だけでしょうか(笑)?

それはさておき。

このようなストーリーは、「2人妻説話」と言われていて、同様の物語が「今昔物語集」や「堤中納言物語」などにも多々存在します。


ヒヨコ・妻の父が没落したことをきっかけに、夫婦の生活が苦しくなる。

・そのうち、夫が新しい妻をつくる。

・元の妻はとても性格が良い。そして「けなげ」である。

・新しい妻は「がさつ」でだらしないキャラクターとして登場する。

・男は、元の妻の良さを再認識して元妻を惚れ直す。

・逆に、新しい妻に幻滅して通わなくなる。


ある程度の違いはあるにせよ、このような決まった型になっています。



この2人妻型説話も入試にはよく出てきます。

「2人の妻がいて…」というくだりが出てきたら、この流れを想定してみましょう。


古文を読むためには、文法力や単語力だけでは不十分です。

ある程度の古典常識や、パターンを知っておくことがより深く、より正確な理解につながります。


まだまだ沢山、この「古文ストーリーの定型パターン」があります。

少しずつ、機会をみてご紹介していきますねチョキ


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