数年前、学習障害児のための学習塾で講師をしていた時のことです。
あすかちゃん(仮名・小3)とみえちゃん(仮名・小1)は姉妹。
どちらもADHDとLDをもっています。
私はその日、あすかちゃんの国語指導をしていました。
聴く力がとても弱いあすかちゃんに、「おうむ返し」の練習をします。
「先生の言うことをよく聞いて、同じように言ってみてね。いい?…わたしが・あさ・おきると……(省略)」
単語レベルなら繰り返して言うことができるのですが、文になると途端に口ごもります。
それでも、何度も指導を繰り返すこと30分。
練習の甲斐あって、
「私が朝起きると、外は雪が降っていました。窓を開けたら、冷たい風が入ってきました」
…程度の文章がスラスラと言えるようになりました。
「出来たね!よく頑張ったね!先生も嬉しいよ」
そう言って、私は彼女と握手をして健闘をたたえました。
するとそこに、妹のみえちゃんが。
「あすかちゃん、よくがんばったね。えらいね」
あすかちゃんの頭を「イイコ イイコ」しました。
そしてくるっと私を振り返り、
「センセ、あたまかして。…センセもがんばったね。えらいね」
と私の頭もイイコイイコしてくれたのです。
驚きと感動。
気恥ずかしさと嬉しさ。
みえちゃんやご両親への尊敬の念。
…様々な想いが胸に去来して、思わず涙が出そうになりました。
声を詰まらながら、「みえちゃん、ありがとね」
とお礼を言う私に見せたみえちゃんの笑顔。
前歯の抜けたその愛くるしい笑顔は、今でも私のこころをそっと癒してくれます。